面白い陰キャラを目指すブログ

面白い陰キャラを目指すという趣旨のブログです。

「二辛」考

先日、街を散歩していると小腹が空いたので、CoCo壱に入ることにした。
 
俺は現在、無職なので昼飯にCoCo壱を喰らうなど王侯貴族並みの豪遊と言わねばならないのだが、どうしてもあのチーズカレーが食べたくて、CoCo壱の門をくぐった。
 
だが、ここで問題が生じる。なにしろ俺は無職だ。金がない。ゆえに、昼飯などという、食べても食べなくてもどちらでも良いようなブルジョワジー特有の娯楽に浸るに至っては、当然のようにコストカットを要されるわけである。
 
ならばどうするか。席についた俺の目に、CoCo壱の「とび辛スパイス」がうつった。
 
…ここでちょっと注意しておくが、俺にとって、CoCo壱のチーズカレーは常に「二辛」だ。それ以外はありえない。あの、常人の舌には「辛い」と「激辛」の中間程度に属するであろう二辛のCoCo壱カレーを、あえてチーズでマイルドにして喰らうという発想が、俺の舌根をたまらなくとらえて離さないのである。
 
しかし…CoCo壱ユーザーの方にはすでにお馴染みの通り、CoCo壱で二辛を頼むと追加で金をとられる。なんと普通の辛さに比して、42円もの料金をとられるのである!これは暴利と言わねばなるまい。うまい棒にして4本分、5円チョコなら8個分、みんな大好きよっちゃんイカだって、42円ありゃお釣りが来るぞ。一体全体、カレーを辛くするのに何が悲しくて42円もの手間賃をとられねばならないのだろうか。
 
そんなプロレタリア文学を彷彿とさせるような怒りを抱えた俺を救済するのが、この「とび辛スパイス」なんである。使い方は簡単。カレーにかけるだけ。そしたらカレーが辛くなる。以上。つまり、いったん普通の辛さのカレーを頼んでおいてから、「カレーを辛くする」という作業を自分でやることにより、42円を節約してしまおうということだ。今流行りのDIYの精神だ。これで俺も、工具男子の仲間入りである。
 
ところがところが、ここでまた問題が生じる。それは、俺の舌がそれほど正確にCoCo壱の二辛の辛さを把握していない、ということだ。
 
なんせ、俺は単なるCoCo壱好きな男であってジャンキーではない。昔、知り合いに平日は一日に二回、CoCo壱に行くという生活を三年ほど続けている変態がいたが、俺のCoCo壱レベルはそういう奴らを90とか100とかに規定した場合、精々10とかその辺である。いくらCoCo壱のチーズカレーが好きと言っても、年に3〜4回くらいしか食わない。毎日食ってたら流石に飽きるだろうし。そんなCoCo壱レベル10程度の俺が、どうしてとび辛スパイスを使用して二辛の辛さを正確に再現することなどできようか。いや、できるはずがない。(反語)
 
うーん、これは一体、どうすればよいのか。俺は本格的に困ってしまった。
 
ここはもう、敢えて42円という大金を払うことで完全なる「二辛」を喰らい、満足感と代償に忌まわしき資本主義社会の犬となるべきか。はたまた、貧乏人の矜持に殉じてとび辛スパイスを使用し、「二辛」とも「一辛」とも「三辛」ともつかない中途半端なカレーを食して中途半端な満足感と共に店を後にするべきなのか…
 
金とプライド。対立する二つの概念は俺の脳内で卍となり、巴となって渦をまく。
 


 

◾️「二辛」とはなにか

 
ここで、悩む俺に天啓とも言える考えが閃く。
 
「そうだ!普通の辛さをチョイスして、店員さんにとび辛スパイスをかけてもらえばいいじゃん!!」
 
…いや、待て。天啓ちょっと待て。それじゃあ結局、店側にサービスを要求しているわけであって、お店の人に「その場合は別途で42円かかるよ。」とか言われる可能性があるぞ。そこで踏みとどまって「はぁ!?なんでやねん!ただでやれや!!」みたいなことを言えば、そりゃあもう、速攻で出禁案件だ。出禁だけで済めばまだいい方で、今みたいなデジタル密告社会でそんなことやろうもんなら、即ツイッターで晒しあげだ。CoCo壱二辛クレームおじさんとして、俺の名は一部のインターネットで後の世まで語り継がれてしまうだろう。
 
ってかそもそも、俺にそこで踏みとどまる度胸なんてないし、さらによく考えたらそもそも店員さんに「とび辛スパイス…かけて欲しいんですけど」みたいなこと要求する度胸が既になかった。コミュ障の陰キャラを舐めてはいけない。天啓、ダメダメである。
 
そんなダメな天啓をふと、脇に追いやって、俺はこんなことを考えてみた。
 
仮に、だ。コミュ障の俺がめちゃめちゃ頑張って店員さんに声をかけたとして、さらに、仮に店員さんがめちゃめちゃいい人で、無料でとび辛スパイスによる二辛メイキングを請け負ってくれたとして…果たしてそうやって出来上がったカレーは、本当に「二辛」と言えるのだろうか?
 
…いや。やはりそれは「二辛」とは言えないだろう。なぜなら、店員さんもまた、俺と同じように二辛の辛さを正確に把握していない可能性が大いにあり得るからだ。
 
俺はCoCo壱でバイトしたことがないから分からんのだけれども、おそらく、CoCo壱では出来上がったカレーごとに店員さんがとび辛スパイスをかけて辛さを調節するような、非効率的なことはやっていないはずである。多分、比較的よく食べられるであろう三辛程度までは、個別にカレー鍋が用意されており、そこで工場から送られてきたそれぞれの辛さ用のカレールーをグツグツ煮込んでいる…CoCo壱のキッチンは、そんな感じなんではないだろうか。(違うかもしれないが)
 
では、仮にそういったシステムによって二辛が管理されていたとして、果たしてそれは完全なる「二辛」といえるのだろうか。
 
なるほど、もしも仮に二辛のカレーのスパイス量が、厳密なレシピに基づいて、工場の機械やらなんやら使って徹底的に管理されていたとすれば、それはかなり完全な「二辛」といえよう。しかし、やはりそれもまた、完全なる「二辛」とは言えないのではないだろうかと、俺は思うのだ。
 
なぜといって、もし仮にそういったシステムで二辛が管理されていたとしても、梱包の際にスパイスの量が微妙にズレが生じるだろうし、さらにいうならば、お店で店員さんがカレーをよそう際にも、スパイスの量にズレは生じるだろう。一皿の二辛の理想的なスパイス量Xに対して、そのお鍋でつくられた二辛皿a.b.c.d....の全てがXを保持することなど、ほぼほぼあり得ない。ズレは必ず、生じるのである。
 
…そもそも、「二辛」とは何なのか。基準はもちろん、CoCo壱の偉い人たちが決めているのだろうが、CoCo壱の偉い人が「うーん、二辛の辛さは、このくらいで!」みたいなことを言ったとして、そういう過程を経て今、食べられている二辛達は本当に完全な「二辛」なのか?人間の脳とはいい加減なものだ。二辛の基準を決めた人だって、体調によっては別の日に食べた二辛が一辛に感じることもあるかもしれないし、三辛に感じることもあるかもしれない…
 
そう考えると、この世に完全な「二辛」なるものはそもそも存在しないことになる。我々CoCo壱ユーザーの前には「二辛」という概念がただあるだけなのであって、誰も本当の「二辛」の姿は知り得ない……
 
そうか。だからこその「42円」なのか。42円さえ払えば、ひとまずは出てきたそれを「二辛」であると信じることができる。店側に全てを委ねた結果、出てきたそれが「二辛」であるという事実を信じながら安心して食事を行いたい。そんな人間の欲求こそがこの42円という価値になって現れたのであり、これは「二辛」を疑ってしまうという業に囚われたCoCo壱ユーザーたちにとっては、精神的な免罪符として機能するものなのだろう。
 
そう考えると、42円という金は、決して高くはないのかもしれない…
 
 
 
 
 
……店に入ってから30分後、俺は満足感を顔に浮かべながら、CoCo壱の門を出た。手に握られたレシートには「チーズカレー  二辛」と、はっきりと印字されていた。
 
この日、俺は隷属した。資本主義にではない。「二辛」の犬になったのだ。もう二度と、俺の目の前にとび辛スパイスがチラつくことはないだろう。

CoCo壱、ラブ。
 
 
 
 
 
 
陰キャラ的・本記事への自己評価
★★☆☆☆(2/5)「なんだこれ……」
 
陰キャラはよく自己評価をする。他の人が一切自分のことを評価してくれないから、自分で自分を評価するしかないのだ。
 
酒浸りの生活を続けていた結果、体調を悪くしてしまったので断酒をすることにした。酒を使って日常から逃げるような生活をしていたので、酒を飲めないとやることがない。じゃあブログでも書くか、ってなって出てきた記事がこれってどういうことよ。俺はよっぽど、書くことが何もない退屈な毎日を送っているらしい。

まぁ、口には出さないだけで大抵の陰キャラはこういうこと考えながらカレー食ってるはずだ。多分。